さよならの夏。
日本時間8:00、グリニッジ標準時間では23:00。
シナプスが私に語り掛ける。
「起キロ!今日ハ何ノ日ナンダ?考エロ!『頭』デハナク『心』デ考エルンダ!」
私は優しい気持ちで目を覚ます。
覚醒から1秒、2秒、3秒…。
8:30
歯を磨き、髭を剃り、リトアニア産のパンツを履く。
今朝の一連の身支度は我ながら誇り高く洗練されていたものだったと思う。
神聖な日、場所には清潔さと丁寧さを持って敬意を払わなければならない。
9:15
チケット売り場に子供連れが並んでいる。
きっと素敵な大人になれよ、子供達。
だが彼らがガチャガチャのように捻りだす言葉は、
「ポケモン2枚」
9:20
チケットを購入する。
窓口のお姉さんが祝詞をくれる。
「今はじめてチケットが売れましたよ」
…そうなの?
9:30
映画館入場。
私はチケットもぎりの方に問う。
「やっぱりあれですか、始まる前になったらドアの前に並ばなきゃいけないとか」
「いや、まだ誰も来ていませんので大丈夫かと…」
…そうなんだ。
10:00
ようやく3、4人のお客が来る。
いや、仲間と言ったほうが正しいかもしれない。
10:05
席に座る。
何も映されていないスクリーンに主題歌が流れている。
それだけで涙を堪えるのに必死である。
10:34
上映まであと1分…。
辺りの席には、老夫婦、父娘、孤独な美少女、文学青年が座っている。
私はコーラを飲みながら思う。
「彼らって最高だ。私は今まさに彼らと同じ目的、同じ時間を共有している。だがこの時間は限り無く短く、別れが待っている。映画館を出たあとには、各々が今日の出来事に少なからず影響を受けて人生を歩んでいくんだろう。何かを是正していこうと生きるんだろう。ましてやこの映画だ。彼らにいい人生が訪れないわけがない。いや!私は信じている!私自身と彼らの幸せを!!!」
…
12:10
上映終了。
各々が各々何かを思っている。
もしかしたら何も思わないかもしれない。
私はそのことについて何も言えないし、それにそんなの当たり前のことだ。
席を起ち、帰り支度をする。
その時、私は確かに見た。
彼らの目に光る何かを!
そして、私は心の底から信じている。
その正体を!その意味を!その行末を!
映画館を出る。
うっかりすると発火してしまいそうな日射しの中を、私は歩きだす。
覚醒から1秒、2秒、3秒…。
fin.